トゥリバー・フォーエバー(宮古島旅行記その6)

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第五の島『下地島』

 三角点を満喫したのち、島探索に戻る。伊良部島は宮古島以上に何もない。ここまで他の観光客もまばらだ。島の西側まで来ると道路と海岸の距離が近くなり海が見えるようになった。高くなった太陽の光で海は青く輝いている。海の向こうを眺めると、遠くに下地島空港が見えた。次の目標の下地島空港「17エンド」はそこにある。

 下地島空港は下地島の北の端にある空港である。羽田空港に匹敵する非常に大きな滑走路を備えた空港だ。なぜ宮古空港の他にもう一つ空港があるのか。
 それは、この空港は旅客用ではなく、もとはパイロットの訓練用空港として作られたためである。以前はJALやANAが訓練に使用し、旅客機のタッチアンドゴー(離着陸を繰り返す訓練)を見る事ができる貴重な場所だったそうだ。
その後、定期的な訓練は行われなくなり、閑散とした空港になっていた。そもそも旅客便を想定していないためか、空港自体が交通の良くない島の外れにあるのだ。「17エンド」は正確には「ランウェイ17アプローチエンド」のことで、「17滑走路の端っこ」という意味だ。その滑走路は海に張り出して作られている。この立地が功を奏し、新たな絶景スポットを生み出したのだ。

 林を抜けると、「17エンド」とだけ書かれた看板を発見。看板にしたがって進むと、空港のフェンスに突き当たる。その向こうには大きな滑走路が見える。フェンス沿いに外周の道を進んで行く。道幅は車がやっとすれ違える程だが、綺麗に舗装されている。右を見るとすぐ下はもう海だ。

 先端部分へ到着。ここが「17エンド」だ。海の色が変わり、ターコイズブルーの景色が広がる。島から張り出した場所のため開放感が素晴らしい。海の前ではなく海の上に立っているように感じる。青い海と青い空だけの景色はいつまで見ていても見飽きない。単なる空港の外周道路を観光地にした景色はさすがだ。有名なスポットになっているため、ドライブの車が頻繁に通り過ぎる。車だと後続車のため停車していられないが、自転車ではその心配はない。サイクリングに適した絶景スポットだ。

 17エンドの風景を目に焼き付けてからサイクリング再開。空港の西側は何もない森である。なんと下地島の人口は50人にも満たないとのこと。そのため、空港以外の場所はほとんど森と畑だ。空港を離れた途端にケータイが通じなくなるのも納得である。急速に開発が進められている宮古島にとって、下地島は宮古の手付かずの自然を感じることができる貴重な場所なのかも知れない。

 しかし、この下地島も開発の真っ只中であり、下地島空港には新ターミナルが建設され24年ぶりの定期便が2019年3月に就航する。(それに伴い17エンドへの自動車での進入が禁止となる)
伊良部大橋が開通したことで交通の便の悪さは解消された。伊良部島にはリゾートホテルが建設中で、そこを拠点に宮古観光をすることができるようになるだろう。17エンドで再び旅客機の離発着が見られるようになるのは嬉しいし、宮古島旅行が身近になるのは望ましい。しかし、開発があまりにも急速である。宮古の時間の流れではなく、東京のスピードで開発が進められているように思う。

ウチナータイムの謎

 夕方まで時間があるので一度宮古島へ戻ってきた。いよいよ脚の疲労が限界を超えそうなので街道沿いのマッサージ店へ立ち寄る。担当は宮古島生まれの方で、施術中に色々と話を聞くことができた。宮古の時間に対する意識が面白く、ウチナータイムの謎が少し解けた気がした。

 まず、宮古の人たちは時間に追われてせかせかしたくない意識が強いようである。仕事や重要な約束事の場合にはちゃんと時間を守るが、遊びの約束の場合にはまず時間通りには集まらないそうだ。意識的に遅れていくのは、プライベートまで時間に縛られたくないという意識があるのかもしれない。集める側の幹事も慣れたもので、本当に希望の集合時刻があれば、その30分前を伝えておくそうである。

 ただ、違うのは時間に対する意識だけではないように思う。時間の流れだけでなく、心にもゆとりがあるのだ。宮古の人たちは自分が待たさることにあまりイライラしないようである。考えてみれば、ウチナータイムを成立させるためには待たされる方の心のゆとりが不可欠だ。5分遅れただけでイライラしはじめてしまう東京では成立しない。その人が言うには、修学旅行で東京に来たときに全力で電車に駆け込むサラリーマンを見てカルチャーショックで笑ってしまったらしい。どちらが良いかはわからないが、自分の生活を客観的に見る姿勢は必要なのだと思う。

パイナガマビーチとサンセットビーチ

 17:00になった。まだ日没までは1時間以上ある。少し雲が出てきている。疲労も溜まっていたため、下地島に戻らずに近くのビーチでゆっくりすることにする。「パイナガマビーチ」は市街地から近く、トイレやシャワーもあるため市民の憩いの場になっている。散歩する人、ペットと遊ぶ人、泳ぐ人、話をする人、寝ている人と様々である。海を眺める人になり、何もせずに過ごす。「何もしない」というのは最高の贅沢の一つだ。

 日没が近くなったので、近くの別のビーチへ移動する。その名も「サンセットビーチ」だ。伊良部大橋のたもとにあり、パイナガマビーチから自転車で5分ほどの距離である。別名「トゥリバービーチ」とも呼ばれ、「トゥリバー」は宮古の言葉で「ゆったりとした」という意味である。広い公園と広い砂浜、一段高くなっている展望エリアからは伊良部大橋が一望できる。2月のこの時期には伊良部大橋に向かって沈んでいく夕日を見ることができた。空と海と夕日、そこにかかる伊良部大橋。ゆったりとした時間の中で、沈みゆく夕日を見送る。早いもので宮古島3日目ももう終わりだ。

宮古と共に「ダグズバーガー」

 夕日で心が満たされたので、次にお腹を満たしに行く。本日の晩御飯は「ダグズバーガー」に決めていた。ダグズバーガーは宮古島発祥のハンバーガー店だ。宮古島に魅せられたアメリカ人のダグさんが創設者で、そのメニューは宮古島の食材を中心に考えられている。看板メニューは多良間島の和牛「多良間牛」を使ったハンバーガー、そして宮古島の「キハダマグロ」を使ったツナステーキバーガーも一押しのメニューだ。セットで1500〜2000円と価格は安くない。価格にもかかわらず多くの人が訪れ、店舗もそれほど大きくないため観光シーズンには予約必至の人気店だ。この日は閑散期であったため、待つこともなく入ることができた。丁寧に作られたチーズバーガーとオニオンリングはとても美味しく、地のものを食べる満足感も味わえる。宮古島に来たときには必ず食べに来るだろう。

 お店の紹介のチラシが置かれていたので目を通すと、ダグズバーガーの経営理念に感心した。それは、一言で言えば地元への敬意を払った経営だ。もともと宮古島の素晴らしさを伝えるための起業であるため、食材は宮古産のものが選ばれる。そして食材の調達に際しては、生産者へ敬意を払い値引き交渉は行わないことを公言している。外部の者が地方で起業しようとするときのロールモデルである。宮古島を利用して儲けるビジネスではなく、宮古島のためのビジネスということだ。

 ここで思い出されるのは島の各地で進んでいるリゾート開発である。宮古島のリゾート開発は飯田産業や三菱地所やユニマットプレシャスなどが主体となって行われている。これらはどれも東京に本社を置く企業だ。これらの外部の大企業が、どれだけ宮古島に敬意を払った形で開発を行っていくことができるのか心配だ。宮古の人たちは開発により地元の経済が潤うと信じているそうだが、宮古島を利用して東京の企業が儲ける開発にはならないでほしい。

最終回へつづく