北アルプス登山録『大天井岳』

初めての北アルプス

 高尾山から始めた趣味の登山は八ヶ岳で高山の魅力を知り、いよいよ北アルプスを目指すことに。とは言うものの、北アルプスが何かもよくわかっていない状態だ。とりあえず地図を購入して計画を練ることにする。

 調べると燕岳(つばくろだけ)が北アルプスの入門に良いらしい。最初の目的地はここにしよう。そうすると登山口は中房温泉という場所になる。地図上でルートを見ると「表銀座縦走コース」と書かれてある。どうやら定番の縦走ルートのようだ。稜線歩きは外せない。このルートで大天井岳(おてんしょうだけ)に向かう。その先を見ると百名山の常念岳(じょうねんだけ)がある。初めての北アルプスは常念岳を目指すことにしよう。

 コースタイムを見ると中房温泉〜燕岳は約5時間、燕岳〜大天井岳は約4時間、そして大天井岳〜常念岳も約4時間となっている。おおまかなプランは決まった。1日目に大天井岳のテント場まで行って一泊、翌日は常念岳のピストン、3日目に中房温泉まで戻る。縦走でなくピストン山行なのはマイカーで行くためだが、往復して理解を深めるためでもある。

持ち物の準備

 日程は8月20日からの2泊3日に決定。次に持ち物の準備をする。せっかくなのでテント泊にする。愛用のテントはドマドーム2(アライテント)。2度の北海道ツーリングで活躍したお気に入りだ。しかし、山では八ヶ岳の樹林帯で一度使ったのみである。今回、ついに山岳テントの本領を発揮するときがやってきた。

 ザックは30Lであるため、テントとシュラフを入れると残りのスペースは限られる。道中には山小屋が点在しているため、食事と水の補給はそちらに頼ることにする。必須アイテムのトレッキングポールとフォームパッドは外付けにする。その他最小限の持ち物でパッキング。

 山頂の気温を調べると頂上で12℃前後のようだ。長袖の上下にハードシェルがあれば十分だろう。歩きやすさを重視してシューズはウルトラファストパック3(ノースフェイス)をチョイス。グローブはクライミング用のハーフフィンガー(ブラックダイヤモンド)を初投入。タオルマフラーは登山では何かと役に立つ万能選手だ。ハンチング帽は普段から被っているもので、ないと落ち着かない。

出発

 19日、仕事を終えて帰宅。夕食とパッキングの確認をして出発。梓川SAまで行き、そこで仮眠を取る。翌朝、曇り空の中を1時間ほど運転して中房温泉に到着。平日にも関わらず第一駐車場はほぼ満車だ。駐車場から5分ほどで登山道へたどり着く。満を辞して入山。

 入山後しばらくは急登の樹林帯が続く。小雨が降っていたが、木々のおかげで気にならない。決して広くはない登山道は最小限の整備がされている。石や木の根が突き出ているが、危険な箇所はなく安心して山歩きが楽しめる。

第一の山小屋『合戦小屋』

 約3時間で最初の山小屋の「合戦小屋」へ到着。到着したのはお昼時で、とても賑わっていた。この頃には雨量も増し、標高も上がったため少し肌寒い。次の燕山荘まではまだ1時間以上かかるので、ここで昼食を取ることにする。
 注文したのはかき揚げうどん。大きなかき揚げが乗っていて、濃い目の味付けが3時間歩いた身体に染み渡る。非常に満足。

 燕山荘を目指して出発。ここからの登山道は良く整備されていて歩きやすい。路傍には高山植物が見え始め、雲の切れ間からは眺望が開けている。木々の密度が減少して、雨の直撃を受け始める。いよいよ高山帯に入ったことを実感する。

第二の山小屋『燕山荘』

 整備された登山道のおかげでペースは上がり、1時間足らずで燕山荘に到着。合戦尾根から稜線に出ると、猛烈な風と雨に晒された。たまらずに小屋に駆け込む。
 喫茶室でカフェオレを飲みながらしばらく雨宿り。標高2700mとは思えない快適さだ。1時間ほどで天候が回復してきた。時刻はまだ14:00。大天井岳を目指す。

表銀座縦走路

 装備を整え燕山荘を出発。雨上がりの空模様の中、不意に雲の切れ間から壮大な山々が出現する。初めての北アルプスの眺望。その雄大さにしばらく圧倒される。

 表銀座縦走路を進むと、天候はさらに好転し青空が見えるようになってきた。風も収まっている。先ほどまでの悪天候のためか登山者は稀である。驚くべき快適さだ。深い渓谷とその向こうに並ぶ山々の景色は見飽きることがない。高揚感と幸福感と共に稜線を歩く。

大天井岳

 燕山荘から3時間の歩行の末に山小屋「大天荘」に到着。頂上はここからさらに10分ほど登ったところにある。時刻は17:00を過ぎていた。ピークハントの前にテントの設営と食事をすませることにする。

 小屋で受付と夕食の手配して、テントの設営にかかる。テント場は小屋の目の前にあり、どこも眺めが素晴らしい。
 北側からは槍ヶ岳の雄姿が眺められ、南側からは歩いてきた稜線が眼下に見渡せる。しかもテント泊は私だけのようで、まさに貸切り状態だ。
南側の端に場所を決めて設営。ドームテントは山の景色によく合う。

 まもなく夕食の時間になり食堂へ移動する。夕食は2800円と昼食に比べると高いが、その分手間が掛かったメニューになっている。メインを2種類から選べるようでハンバーグをチョイス。もう一種類は鯖の味噌焼きだったと思う。美味しい食事をゆったりと頂いた。

 夕暮れが近づき、大天井岳頂上へ向かうことにする。遠くには夕日に照らされる槍ヶ岳が見え、空は穏やかに流れている。目に写る景色の全てが美しい。
沈む夕日を眺めながら幸せな時間を味わう。7時間歩いてきた甲斐があった。

2日目に続く