北アルプス登山録『常念岳』

1日目はこちら

起床(大天井岳テント場)

 夜中に強風の音で4〜5回起こされ、あまり熟睡できなかった。外を覗いてみても真っ白で景色は何も見えない。それでもまだ雨は降っていないようだ。テント内で素早く朝食を済ませ、出発の身支度を整える。

 2日目は常念岳のピークハントである。片道3時間の道のりのピストンになる。今夜も大天井岳でテント泊の予定なのでドマドームは張ったままにする。強風で飛ばされないことを祈る。8:00出発。

ライチョウと遭遇

 常念岳まではアップダウンを繰り返す稜線歩きだ。このルートは1920年頃に喜作新道が開通するまでは槍ヶ岳へ至るメインルートだったようだが、今ではその役目を終えてひっそりした雰囲気だ。道中にはその名残の「旧二俣小屋跡」の石積みが残っているのみで、常念小屋まで他の山小屋はない。

 出発してから30分、ハイマツ林のトンネルを抜けたところでライチョウの一団と遭遇。山でライチョウを見たのは初めてのことで驚いたのだが、ライチョウたちも鉢合わせに戸惑っている様子だ。驚かせないためその場にしゃがみ、観察することにする。母鳥1羽と子供達4羽の集団のようだ。

 しばらく眺めていると、警戒心を解いた母鳥が目の前を通り過ぎて行ってくれた。通り過ぎざまに立ち止まりこっちをじっと見てくる。あまりの愛らしさに思わず笑みがこぼれる。母鳥の後を続くようにして子供達も順番に通り過ぎていく。そしてそのままガレ場の斜面を登って行ってしまった。鳥なのに飛ぶのが苦手で歩いて登っていくのもまた可愛い。

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 ライチョウは大昔から「神の使者」として崇められ、狩猟の対象になることは少なかったようだ。そのためか人間を全く恐れない。ぜひこの良い関係を維持していきたい。しかし残念なことに環境の変化によってライチョウは絶滅の危機に瀕しており、生息数は2〜3000羽まで減っているそうだ。これほど人間に好意的に接してくれる動物が、人間のせいで絶滅の道を辿らないことを強く願う。

常念小屋

 常念小屋までの尾根歩きは平坦ではなく、下ってはまた登る繰り返しである。想像よりもだいぶキツイ。予定通り3時間の道のりであったが、常念小屋に着いた時には脚にかなり疲労感があった。

 常念小屋の標高は2450mであり、出発した大天荘から450mも下っている。そして、常念岳山頂は2857mなので、下った分だけまた登ることになる。道中の登りも含めると、往路の累積標高は600mを超える。コースタイムばかり気にして、地図読みを怠っていた報いを受ける。これからはルートの起伏にも注意を払って計画を立てることを心に誓う。

 常念小屋の前でちょうど物資運搬のヘリが飛来し、荷物を下ろす光景を見ることが出来た。荷物を切り離すと、あっという間に山間部へと飛び去っていってしまった。彼らの仕事のおかげで北アルプスの山行がより快適になっているのだ。ありがとうございます。ピークハントに向けて常念岳で昼食にする。この日の軽食はラーメン、カレーライス、牛丼のみとのこと。牛丼を美味しくいただき英気を養う。

常念岳ピークハント

 正午、ピークハントに向かう。急登のガレた岩場を登ること30分。下から見上げていた場所までやっと到着。しかしその場所は山頂ではなく、まだ半分ほど登っただけに過ぎないことが判明し愕然とする。

 さらに気力で岩稜を登り続け、なんとか山頂へ到達。天候は回復せず、冷たい雨が降り続いている。常念岳の山頂は独特の雰囲気の岩場で、百名山に数えられるのも納得の姿である。

 山頂に他の登山者はおらず、かわりにニホンザルが待ち構えていた。ハイマツの実を食べに来ていたようだ。後でわかったが、ニホンザルの行動範囲が広くなっていて、ライチョウのヒナが捕食されているようだ。これもライチョウが数を大きく減らしてしまっている原因であるという。

大天井岳へ戻る

 常念小屋まで戻り一休み。時刻は14:00になり、大天荘まで戻ることを考えるとあまりゆっくりしていられない。身支度を整え、来た道を戻る。再びアップダウンを繰り返す稜線歩きになるのだが、復路の方が登り傾向になる。帰り道の方が登っている登山というのもめずらしい。その上、無情にも雨が強くなってきた。

 ヘロヘロになりながらも3時間歩き、なんとか大天荘へ帰ってきた。我が家であるドマドームは強風に飛ばされておらず安心。濡れてしまった装備品を乾かしたかったが、この日もテント泊のため乾燥室は使えない。ストーブの使えないテントでは、濡れたものはもはや乾かない。悪天候の場合にはおとなしく小屋泊に切り替えた方が良いと学んだ。

 ありがたいことに大天荘にはカフェタイムがあり、21:00まで喫茶室を利用できる。目一杯くつろがせていただく。

快適な小屋に後ろ髪を引かれながらも強風のテント泊へ戻る。今晩は私の他にもテント泊のグループが2〜3組いるようだった。どのテントも稜線の強風に煽られている。今夜は風の音で何度起こされるだろうか。2日目もなんとか無事終了。