独学ソロ登山
独学で続けてきた登山だが、その中で気がついたことをまとめておこうと思う。これから登山を始めようと思っている人や、私のように教えてもらう環境がない人の参考になれば幸いである。
ソロ山行という選択
登山を始めてから数年経った。特にここ2年間は集中的に山行を行い、すっかり登山が趣味になっている。最初は高尾山などの低山を登っていたが、今年はついに北アルプスに登ることができた。
私は基本的にソロ山行だ。友人と登るのも楽しいが、やはり一人で気ままに登るのが好きだ。ひとりで黙々と山の中を歩き続けることには瞑想のような作用があるような気がする。今では私の生活に欠かせない時間になっている。
ただし、山登りはリスクを伴うレジャーである。ソロで山に入るということは、パーティで行く場合に比べてリスクは大きくなる。仲間がいればケガをしたときに助けてくれたり、滑落や遭難したときに通報してくれたりするかもしれないが、ソロでは基本的に全て自分ひとりで対処しなければならない。
プロの登山家ではないので、登山に命は掛けない。何よりも怪我をしないで無事に帰ってくることが最優先事項になる。また、個人的な楽しみで他人に迷惑をかけるのも恥ずかしいことだ。ソロで山に入るからこそ、十分なリスク管理をしなければならない。
P D C A山行
性格的に人に教わるよりも本やネットで調べて実際に試しながら身につけていく方が性に合っている。登山でも同じで、詳しい人に連れて行ってもらったという経験はない。自分で計画を立て、装備や持ち物を考えて実際に山に入る。すると予定通りにならないことがしばしば起こる。そういった失敗から反省点を見つけていくのだ。いわゆるP D C Aサイクルであり、これが楽しい。
もちろん、諸先輩方に教わった方がより安全で失敗は少ないと思う。ただ、自分で試行錯誤しながら新しいことを身につけていくのも趣味の醍醐味だ。また、その過程でお仕着せではない自分なりの登山スタイルが確立されていく。
ただし、取り返しのつかない失敗は避けるようにしなければいけない。例えば滑落や遭難の報告が多い場所に十分な準備なしに単独で向かうことはただの無謀でしかない。
服装が最重要
初めの頃、登山では服装が重要であるということに気がつかなかった。登山用のウェアは高価なので普段のままの服装で山に登っていた。綿パン、綿シャツ、スニーカー、防寒着はダウンジャケットというスタイルだ。後に登山では「化学繊維が基本」で「綿はN G」あることを知った。
なぜ綿はN Gなのか
なぜ綿がN Gなのだろうか。それは、山行中に「着衣を湿らさないこと」が重要であるからだ。綿は一度濡れるとなかなか乾かないという特徴がある。雨や汗で濡れてしまうと、山行中はずっと湿ったままになるだろう。これはとても不快であるし、重くなった衣服では動きが悪くなる。
また、寒い時期であれば湿った衣服が体温を奪ってしまうため危険だ。着衣が湿る原理を理解することができれば、自分でコーディネートを組み立てることができるようになる。
「汗」への対策:化繊素材
衣服が湿ってしまう原因は二つある。一つは「雨」で、もう一つは「汗」だ。山行ではこの両方に対応できる服装が求められる。雨の方がイメージしやすいと思うが、登山ではむしろ「汗」の方が厄介である。
重い荷物を担いでの登山は、平地でのジョギングと同程度の運動強度になる。登り道ではゆっくり歩いていても汗は止まらない。そのため山頂に着く頃には着衣は汗でびしょびしょになっている。このときに化学繊維の服装であれば保水量が少ないため、程なく乾いてしまう。しかし、綿素材であると一向に乾かないのだ。乾かないどころか気化熱で体温を奪い続ける。山頂はふもとに比べて気温が低いため、休憩しているとあっという間に体は冷え切ってしまう。そんな状態からさらに下山しなくてはならなくなる。
「雨」への対策:ハードシェルジャケット
自然が相手の登山では、雨への準備は欠かせない。長時間の山行の場合には必ずレインウェアを持参するようにする。登山に適しているレインウェアの条件は2つある。
一つは、「上下セパレートタイプ」であること。パンツの着脱は手間になるが、足元の防水は重要だ。裾が濡れるとそこから靴下につたわり、最後には靴の中まで染み込んでしまう。これではせっかく防水の登山靴を履いても意味がない。水の染み込んだ登山靴で歩く不快感は避けたい。
もう一つのポイントは「透湿性を持っていること」だ。つまり、体からの湿気を外に逃すことができることができるかどうかということだ。登山用のレインウェアは防水浸透素材というものを使っていて、代表的なものはゴアテックスだ。これは、外部からの水分は防ぎつつ内部の湿気は抜けるような性質を持っている。
一般的なビニール生地のものは登山にはおすすめしない。行動中に着るとサウナスーツになり、あっという間に汗まみれになる。つまりレインウェアとは言っても、結局のところ「汗」への対応の方が重要なのだ。商品のタグを見ると「耐水圧〇〇mm」という表記がされているが、実際には豪雨の中を歩き続けることはほとんどない。むしろ、体の発した湿気を溜めないことの方が大切になる。これは「浸透性〇〇g/m2」と表記されている。

一番簡単な雨対策は「ハードシェルジャケット」だ。ゴアテックスなど防水透湿素材を使ったペラペラのパーカーのことだ。これ一つで「防寒・防風・防雨」ができるので非常に便利だ。かなり高価だが、長く使えて使用頻度も高いためコストパフォーマンスは良いと思う。
防水浸透素材は様々なメーカーが開発しているが、ノースフェイスの「フューチャーライト」はこの透湿性能に重点をおいた点で他のものと大きく異なる。湿気だけでなく空気も通すため蒸れにくくなっている。その分、防風性能と防寒性能は下がっていると思われるので、自分の山行スタイルに合わせて選んだ方が良い。
個人的にハードシェルジャケットが装備品で一番重要だと思っている。クライマーにとっての鎧のようなものだ。ここは妥協せずに高価でも気に入った良いものを買った方が良い。山行の良い相棒になってくれる。
普段着山行のススメ
実は今でも普段着で登山をしている。とは言っても綿パン、綿シャツで山に行っているのではない。逆転の発想で、普段着を登山にも使えるものに替えたのだ。登山用品は過酷な環境に耐えられるように作られていて高品質だ。これを登山のときにしか使わないのはもったいない。
最近ではタウンユースを考えて作られた登山ウェアも多くある。そういったものを選んでおけば、着慣れたいつもの服装で山にも行くことができる。体に馴染んだ服装はストレスが少なく、山行に集中することができる。