DW:「美のレース」(原題:The social media beauty cult)

The social media beauty cult | DW Documentary

ソーシャルメディアの闇

 女性にとって美しさを追求することは重大なことです。自分と周囲とを比べることは、これまでも特別珍しいことではないでしょう。しかし、近年インスタグラムをはじめとするソーシャルメディアの発展とともに大きな問題となっているそうです。ソーシャルメディアの発展は私たちにはるか遠くの人々と繋がる機会を与えてくれるようになりました。その一方で、自分自身と比較したときに感じる差も大きくなっているのでしょう。ある専門家は、そのため近年の若い女性達は十分な自尊心を持てないままでいると指摘します。ソーシャルメディアによって加速された美の追求競争は、彼女達の心の問題にまで発展しています。

Hours spent on mobile phones fuel mutual comparisons and evaluations. Young women tend to focus on a lot on what they are not or do not have, and they feel inadequate.

彼女たちがスマートフォンに費やした時間は、お互いの比較や相互評価を激化させます。若い女性たちは自分にはないものや持っていないものに惹きつけられる傾向があります。そして、自らが不十分であると感じてしまうのです。
  • fuel : 燃料を与える、勢いを与える
  • mutual : 相互の
  • comparison : 比較
  • evaluation : 評価
  • inadequate : 不十分な

It’s not a completely new phenomenon but social media has certainly amplified the issue.

それは、今に始まったことではないですが、ソーシャルメディアによって確実に増幅されています。
  • phenomenon : 現象
  • amplify : 増幅する
  • issue : 問題

痩せることに取り憑かれたニコール(22歳・学生)

I’d wake up in the morning. And the first thing I do was look at pictures of thin models on Instagram. But they weren’t just models. They were also normal girls with anorexia.

朝起きて最初にすることは、インスタグラムでスレンダーなモデルの投稿を見ることでした。でも、そこにあるのはモデルの写真だけではありませんでした。拒食症になった普通の女性達の投稿もありました。
  • thin models : 細いモデル達
  • anorexia : 拒食症

 インスタグラムには「thinspo」というハッシュタグがあります。(現在では禁止されたためか出てこないようです)これは、痩せることを追求している人たちが使用しているもののようですが、モデルだけでなく拒食症の女性達の投稿も出てくるそうです。

ここに、その極端に痩せた女性達の写真に惹きつけられた女性がいました。22歳で学生のニコールは、彼女達に近づこうと努力しました。その結果、めまいがするとき以外には何も食べないような生活を送るようになり、肉体と精神の健康を失いました。その後、彼女は違和感を感じてカウンセリングを受けたため、最悪の自体は免れて今では健康を取り戻しています。

専門家によると、あまりにも自分とかけ離れた体型の女性を理想に掲げるのは危険であると指摘します。そうではなくて、自分と同じくらいの体型でも魅力的な人々を見つけて、そのイメージを目標にすることが望ましいと言います。こうすることで、ソーシャルメディアと健全性を保った付き合いができるようになります。この方法によってニコールは回復し、今では自尊心を取り戻すことができたと語りました。

 ソーシャルメディアに危険性があることは多くの人は知っています。それでも使うことやめるのは簡単ではありません。物心がついたときにはSNSに囲まれていた若者たちにとっては尚更です。子供たちに一切の使用を禁止したり時間制限を設けるというのは現実的ではありません。それよりも、その危険性を具体的に伝え、本人に理解させることが大切なのだと思います。そうすれば、自ら自分自身のために適切な距離を保つようになるかもしれません。このようなテーマは早い段階で学校教育で教えられるべきだと思います。

These girls are trying to fit their self-image. And if that doesn’t work, it’s because that image is too far removed from reality.

若い女性たちは自分の理想像を目指して努力をしているのです。しかし、それがうまくいかないのであれば、その選んだ理想像が現実とかけ離れているということなのです。
  • self-image : 自分の抱いているイメージ
  • removed : ほど遠い

筋肉自慢のエヴァ(23歳・ボディビルダー )

I always have to plan my meals. I can’t just go out somewhere for a day without having cooked in advance.

毎日の食事には計画があります。だから、事前に調理したものを持参しなければ、1日だって出かけることができません。
  • in advance : 事前に

 痩せることを追求する人がいる一方で、筋肉をつけることに喜びを感じる人たちもいます。23歳のエヴァは生活の大部分をフィットネスに費やしています。厳しいトレーニングと厳格な食事管理をした彼女の体は彫像のようです。忙しい合間を縫って、彼女はソーシャルメディアに自身の自慢の肉体を投稿しています。このように鍛えあげた肉体もまた、ソーシャルメディアには多く投稿されています。

専門家は、女性が筋肉をつけることの大切さを認める一方で、行き過ぎた肉体美の追求に警鐘を鳴らします。本来、肉体と精神は一体のものです。彼女のように肉体美を追求する人たちは、自分の体を一種の客体として厳格に管理をします。そして、過度の負荷を肉体にかけることから精神と肉体とのバランスが崩れるそうです。

エヴァはフィットネスの目的を「自分を向上させること」と言いながら、大会で勝つために精神をすり減らすような生活をしています。大会で勝つことに喜びを見出しているため、彼女はこの生活をやめることはできません。しかし、このような生活を一生続けていくことは不可能に近いだろうと専門家は言います。

I’d say this kind of aversion to pleasure is due to an intense body cult. It’s your mind response to our body’s objectification.

このような楽しむことに対する嫌悪は激しい肉体への信仰があると言えるでしょう。私たちが自分の肉体を客観化したことに対しての精神の反応なのです。
  • aversion : 嫌悪
  • pleasure : 喜び
  • intense : 激しい
  • objectification : 客観化

My motivation is to keep getting better. I don’t compare myself to others. I just want to improve myself.

私のモチベーションはより良くなることなの。他の人たちと比べるつもりはないわ。ただ自分を向上させたいだけ。
  • motivation : 動機付け
  • compare : 比較する
  • improve : 改善する 

自分のありかたを見つけたエスラ(27歳・ラッパー)

But if I’m criticized all the time when you’re 14 or 15, you start asking yourself things like whether or not you’re pretty. If you don’t find validation, things can get problematic and you can get stuck in an eternal battle with yourself.

14、5歳の頃に常に批判されていたら、自分に魅力があるのようなことを自問しはじめます。それで自信を持てることを見つけられないと、いよいよ問題になって、終わりの見えない自分との葛藤に閉じ込められてしまいます。
  • criticize : 批判する
  • whether or not : かどうか
  • validation : 確証
  • problematic : 問題性
  • stuck : 抜け出せない
  • eternal : 永久の

 エスラは声高にラップを歌いながら市場の中を歩きます。周囲の好奇の視線にもかかわらず、彼女の目には自信が満ちています。そんな彼女も以前は自分に自信が持てなかったそうです。ラップと出会い、そこに自分の居場所を見つけたことで自分に自信が持てるようになったと言います。一見風変わりな彼女ですが、話す内容はとても客観的で冷静に物事を観察しているように感じます。

 前出のエヴァも自分の肉体から自信を得ていますが、両者に違いはあるのでしょうか。エスラは「自身の源は物質的なものではなく精神的なもの」と言います。これを例を挙げて説明すると、完璧な肉体美を永遠に保つことは難しいですが、ラップを楽しむことは健康が許す限りできると言うことでしょう。つまり、あることを楽しむこと自体が目的であれば、それは人生を楽しくする自信の源になるのでしょう。しかし、それをすることが周囲の評価を得たり、他者に勝つことが目的になってしまうと、問題の源になってしまうのだと思います。なぜなら、それらは完全に自分でコントロールすることができないもので、いずれ限界がくるからです。

専門家は、私たちは完全に他人にコントロールされることはない一方で、完全に自己決定をすることもできないと言います。大切なのは、その間でちょうど良い落とし所を見つけることだと伝えます。もしも、自分とかけ離れた理想像を掲げてしまえば、それに近づくための危険な努力と、達成しないことによる落ち込みを味わうことになります。この行末は悲劇になることが想像できます。そして、ソーシャルメディアにはそのきっかけとなる危険性が潜んでいます。それを理解し、また、子供たちに理解させることが大切です。

I feel beautiful the way I am now. I feel comfortable with who I am, charming and attractive. I might be also look nice in different cloths and with a different image and style. Maybe I’d be pretty then too, but I’d never be happy because that wouldn’t be me.

私は今のままでも美しいし、自分自身のあり方に満足してる。十分可愛いし魅力的。
服やスタイルを変えれば見た目は良くなるかもしれないし、可愛いくなるのかもしれない。でも全く嬉しくないだろうね。だってそれはもう「私」ではないから。
  • the way I am now : 今の自分のあり方
  • attractive : 魅力的