①「嫌われる勇気」 岸見一郎・古賀史健
アルフレッド・アドラーによる「アドラー心理学」。それをわかりやすく解説した入門書です。悩める若者と賢者の対話という形式ですすめられていて、物語のように楽しみながら読めます。
多くの心理学では「運命論」の考えが主張されます。これは、生まれや遺伝子などによってその人には避けられない運命があるというものです。この考えによれば、自分の不幸は自分のせいではないという安心感を得ることができます。代表的なものはフロイトのトラウマ論ですね。ここまで極端な形ではなくても「性格」や「生まれつき」という言葉でたいていの人はこの考え方を受け入れています。しかし、この運命論を受け入れることは、同時に人は変わることができないという考えも受け入れることになります。
一方で、アドラー心理学では完全に真逆の主張します。たとえば「人見知り」や「あがり症」「かんしゃく」などは生まれ持った性格や性質でなく、本人が自ら選んでいる「手段」なのだといいます。そして、その手段の奥には隠された「目的」があるのだといいます。この本人にすら無意識である目的を理解し正すことで、人はいつでも変わることができるとアドラー心理学では主張します。このため、極端な形で言えば「自分の不幸は自分のせい」ということを受け入れなければなりません。これにより、痛みを伴うアドラー心理学は「劇薬」と評されるのです。
「ノーペイン・ノーゲイン」(痛みなくして成長なし)からスタートするアドラー心理学ですが、その先にはこの痛み自体が自分が作り出した幻(ファントムペイン)であるという結論に達します。
いえ、あなたは変われないのではありません。人はいつでも、どんな環境に置かれていても変われます。あなたが変われないでいるのは、自らに対して「変わらない」という決心を下しているからなのです。
P51 第一夜 ライフスタイルについて
②「いやな気分よさようなら」 デビット・D・バーンズ
うつ病の治療法として認知行動療法というものがあります。これは、1960年代にアーロン・ベック博士によって提唱されたものです。ベック博士から学んだデビッド・D・バーンズ博士がまとめ、この本の原書が1980年に出版されました。日本ではそこからおよそ10年後の1990年に翻訳版が出版されたようです。医療現場においては2010年から保険が適用されるようになり、現在では一般的な治療法として浸透してきています。書店に行けば数多くの認知行動療法の本が並べられています。半世紀という長い期間を経てようやく日本でも一般的な市民権を得たと言えそうです。
本書は医学書ではなく、一般向けに書かれたものです。それは、認知行動療法がうつなどの精神疾患だけでなく、もっと一般的な気分の落ち込みにも効果があるためです。また、投薬や専門のカウンセラーがいなくても紙とペンがあれば自分自身で行うことができる手軽さがあります。
本書では、「認知の歪みの定義」という10個の典型的な誤った考えが紹介されます。これは、不幸を生むような考え方を突き詰めていくと、これらのうちのどれかに当てはまると言うものです。たとえば、そのうちのひとつに「全か無か思考」という定義があります。これは「ものごとを白か黒のどちらかで考える思考法。少しでもミスがあれば、完全な失敗と考えてしまう」と説明されます。ほかにも「個人化」という定義は「何か良くないことが起こった時、自分に責任がないような場合にも自分のせいにしてしまう」というものです。
この認知の歪みの定義を覚えておくことで、自分や他人の考え方の歪みに気がつき、対処しやすくなります。また、心理学や自己啓発の本を読むときには、理解するための良いツールになります。そのため、早い段階で読んでおくことを勧めたい一冊です。
咳が出たからといってあなたが肺炎で倒れる運命にあるという証明にならないように、絶望という感情が実際にあなたが絶望的であるという証拠にはならないのです。
P.404 第十五章 最終的な勝利