自動詞と他動詞の意味

暗記は必要か?

 動詞には自動詞と他動詞の2種類がある。一般に、自動詞とは目的語を必要としない動詞であり、他動詞とは目的語を必要とする動詞であると説明される。

 常に自動詞か他動詞のどちらか一方に分類される動詞もあるが、多くの動詞は場面によって自動詞としても他動詞としても使われる。そのため、ただ自動詞・他動詞を暗記することにはテスト対策以上の意味はないだろう。
しかし、その動詞がなぜ自動詞(または他動詞)なのかという部分には重要な意味が含まれる。ここが思考を働かせるべきポイントとなる。

動詞のイメージ

 動詞とは、文字通り動くことを表す単語である。別の言い方をすると、様々な「動く」イメージを持つ単語を動詞と呼ぶ。walk・swim・runなど身体の動きを表すものや、love・understand・surpriseなど心の動きを表すものなど種類は多様である。

 「動く」と言うイメージは直感的に理解しやすいが、動詞にはもう一つ別のイメージがある。犬も歩けば棒に当たるというように、何かが動けば他の何かに影響を与えることがある。ここからもう一つのイメージが生まれる。それが「力が加わる」というイメージだ。

A dog hits a stick.(SVO)

 ここには、「当たる」犬の視点と、「当たられる」棒の視点の二つがある。前者がSとVの間にある「動く」イメージであり、後者がVとOの間にある「力が加わる」イメージだ。
五文型でいうところの第三文型(SVO)であるが、ここで重要なのはVとOの間には常に「力が加わる」イメージが存在することだ。そのためSVOの文型で用いられる動詞は、常に「力が加わる」意味を持つ他動詞となる。

自動詞と他動詞の意味

 自動詞と他動詞を実質的な面から説明し直すと、「動く」イメージのみを持つ動詞を自動詞といい、「力が加わる」イメージも併せて持つ動詞を他動詞と言う。
はじめに「自動詞とは目的語を必要としない動詞であり、他動詞とは目的語を必要とする動詞」と書いたが、実質的な説明ではこれは逆になる。ある動詞に「力が加わる」イメージが含まれていれば必然的にその力を受ける相手(目的語)が必要になり、結果として他動詞と分類される。逆に、「動く」イメージしか持っていなければ、受け手は不要であり自動詞と分類される。
まず個々の動詞のイメージがあり、それが結果として自動詞(または他動詞)として分類されるのだ。

抽象的な話が続いたので、具体的に動詞を挙げて説明していく。

Look at me.(SVC)

See you again.(SVO)

 lookとseeはどちらも「見る」だ。一般的に、Lookは自動詞として、seeは他動詞として用いられる。そのため、seeは直接に目的語を取ることができるが、lookは前置詞を補いlook atとしなければならない。
これは、lookには視線が「動く」というイメージしかなく、seeはその視線が相手に「加わる」イメージも含んでいるからだ。前半が文法的な説明であり、後半が実質的な説明になる。理解すべきはもちろん後半だ。

 てこの原理には、力が発生する「力点」と、その影響が生じる「作用点」がある。自動詞では「力点」のみ視点が置かれるのに対して、他動詞では「力点」と「作用点」の二つに視点が置かれている。二つの視点がある他動詞は、自動詞と比べてより広い意味を持つようになる。
今の例でいうと、look at には「見る」という意味しかないが、seeには「会う」という別の意味もある。これは、自分の視線が相手に届き、相手もこちらに気がついていることがイメージされている。ここから「会う」という意味が派生的に生まれる。

 ここで注意すべきは、多くの動詞は自動詞にも他動詞にもなりうるということだ。二つ例を挙げる。

Keiichi drives on the street.(SVC)

Keiichi drives 86.(SVO)

 前者のdriveは自動詞で「車で走る」と訳され、後者では「運転する」と訳される。後者では圭一がハチロクに「力を加えて」操っている意識があるが、前者の公道(on the street)との間にはその意識は存在しない。

Jobs runs to Apple.(SVC)

Jobs runs Apple.(SVO)

 前者のrunは自動詞であり「走る」と訳され、後者でrunは他動詞であり「経営する」と訳される。他動詞を用いた後者では、動詞の意味以前にアップルに「力が加わる」イメージが存在している。その上でrunの持つ「すばやく、滑らかに流れる」というイメージが重なり「経営する」という意味になる。

SVOの形に気がつくこと

 繰り返しになるが、動詞が他動詞として直接に目的語を取る場合には、単に動作をしたことだけでなく他者(目的語)になんらかの影響を及ぼしたことも意識されている。
これは五文型で言うところのSVOの形である。この形に自然と意識を働かせることができるようになれば、より繊細な読解力と表現力が身につく。
SVOの文型が文に与える影響についていくつか例を挙げながら説明していく。

Robbin shot a bird.(SVO)

Robbin shot at a bird.(SVC)

 前者では、a birdが直接shotの目的語になっている。そのため、「撃ったロビン」だけでなく「撃たれた鳥」という意識も含まれている。それに対して後者では、a birdは直接の目的語にはなっていない。鳥に向けて(at a bird)撃っただけであり、実際に当たったかどうかについては全く触れられていない。
at の有無という些細な違いから、意味は大きく異なる。

I know Ichiro.(SVO)
I know about Ichiro.(SVC)

 前者では動詞が直接に目的語を取っているが、後者では間に前置詞aboutを置いている。(後者の文法上の分類がどうなるかの議論はここではしない)
両方とも「私はイチローを知っている」と訳されるが、やはり意味するところは大きく異なる。後者は「私はイチローについて知っている」と言う意味であるのに対して、前者は「私はイチローと知り合いだ」という意味になる。
前者では、knowが他動詞として直接に目的語(Ichiro)を取ることで、イチロー本人に影響を及ぼしていることが示されているからだ。こちらが一方的に知っているだけではなく、イチローもそのことに気がついていることも含まれている。そこから「知り合いである」という意味が生まれてくる。

I told you.(SVO)

I said to you.(SVC)

 前者ではyouが直接の目的語になっていて、「言った自分」だけでなく「言われた相手」も意識されている。そのためtellは「伝える」と訳される。後者の場合は、あなたに向けて(to you)言っただけで、それが相手に到達したかどうかは不明である。

 最後の例で、Tellを翻訳した「伝える」には「力が加わる」イメージが含まれている。この翻訳は的確で、say(言う)と差別化することができている。
しかし、このように常に上手く対応する日本語があるとは限らないため、日本語訳の丸暗記だけでは英文読解に限界がやってくる。
動詞の翻訳を考える前に、SVOの形を取っていることに気がつくことが大切だ。その場合に「力が加わる」イメージが含まれることが分かれば、より正確に英文が伝えようとしていることを理解することができるようになる。