TED:デヴィッド・スタインドル=ラスト『 幸せになりたいなら感謝しよう』

再生後に右下の字幕選択から日本語を選択できます

要約解説

 「すべての人々は幸せになりたいと思っている」、彼はこのように話し始める。そして、私たちが幸せになるための鍵が「感謝の心(gratefulness)」であると続ける。彼によると、幸せだから感謝するのではなく、感謝の心を持つことで人はどのような状況に置かれても幸せを感じられるようになるという。

感謝の気持ちが起こる仕組み

 私たちの心に感謝の気持ちが起こるためには、二つの条件が必要なのだという。一つは良い出来事が起こること、もう一つはそれが無償で与えられたことである。彼によれば、「無償である」というのが重要なのだそうだ。私たちは、「なんの努力や対価を払うことなく」良い出来事が起こったときに感謝の気持ちを感じる。もしも、何らかの対価を払っている意識があればそうはならないのだという。

与えられているのは「機会」

 ここまで聞いて、「私にはそもそも良い出来事がないのだから感謝することはない」と思ってしまうかもしれない。彼は、重要なのは「機会(opportunity)」そのものが与えられていると気がつくことなのだという。しかし、ほとんどの人は「今という瞬間(this moment)」の貴重さに気づかずに日々を過ごしている。

 私たちは生まれてからずっと「今という瞬間」が与えられ続けている。そして、それなしにはどんな素晴らしい体験も起こることはない。そう考えれば、「今という瞬間」には人生でなしえるあらゆる可能性を含んでいると言える。これが「機会」であり、生きているということだ。そして、その貴重な「機会」がなんの努力もなく次々と与えられていることに気がつけば、私たちは人生そのものに感謝の気持ちを持つことができるのだという。

感謝の気持ちは忘れてしまうもの

 彼は、アフリカから帰国したときに、水道をひねるだけで飲み水が出てくることに感動したという。しかし、しばらくするとその感動も薄らいでしまったそうだ。そこで、蛇口にシールを貼り、それを見るたびに感謝の気持ちを再確認するようにしたそうだ。
 彼はこれを「立ち止まること(stop)」と説明する。多くの人は人生を流れるように生きてしまっていて、そのありがたさを忘れてしまっているのだという。そこで、生活の中に自分なりの「止まれ」の標識を作ることで、立ち止まって自分の人生を再認識する機会を持つべきだと提案する。

「止まる、見る、進む」

 そして、立ち止まることができたら、次に「観察すること(look)」と「行動すること(go)」をすべきだという。このようにすれば、自分の思うように人生を変化させていくことが可能になるのだそうだ。
また、自身が感謝の気持ちで溢れていれば、他社に攻撃的になることもなく他者から奪おうという気持ちもなくなるのだという。「止まる、見る、進む」の習慣で、自分だけではなく周りの人々の幸せにもつながる。

  最後に、彼はこの世界が目指すべき理想の姿を語った。それは、この「止まる、見る、進む」の意識を持った人々が、信頼で結ばれた小さなコミュニティをつくり、それらの小さなグループがお互いに繋がり合いながら広がっていくことだと言う。

要点

  1. 幸せだから感謝するのではなく、感謝の気持ちを持つから幸せを感じる。
  2. 「今という瞬間」の貴重さに気が付けば人生に感謝することができる。
  3. 生活の中に自分なりの「止まれ」の標識を取り入れる。

思ったこと

「ありがとう」

 感謝の気持ちを言葉にすると「ありがとう」になる。「ありがとう」の語源は「有り難し」であり、「滅多にない、貴重である」と言う意味だ。人は見返りなしに他人から何かをしてもらったときに感謝の気持ちが湧いてくる。
そして、心から「ありがとう」と相手に伝えたときには、相手だけでなく自分自身も幸せな気持ちになっている。これが、彼が言うところの「感謝が私たちを幸せにしてくれる」ということなのだと思う。

「今」に集中すること

 禅の教えに「今、ここ、わたし」と言うものがある。彼の伝えたいことと本質的に同じである。哲学とは、時代の変化によっても色褪せない普遍的で本質的な考えのことだ。名言として長い年月受け継がれているフレーズには、このような内容を伝えているものが多くある。その中から一つ、インドの劇作家カーリダーサの詩を紹介する。

「夜明けへの挨拶」

今日という日に目を向けよう!
これこそ命、命の中の命なのだ。
その短い行程の中には君の存在の真理と現実とがすべて含まれる。
生まれ育つ喜び
行動の栄光
美の輝き

昨日は夢にすぎず
明日は予感でしかない

精一杯に生きた今日は
すべての昨日を幸せな思い出に変え
すべての明日を希望の見取図とする。
だから目を開こう、今日に向かって!
夜明けへの挨拶はこれだ。

カーリダーサ

 この詩は、デール・カーネギーの著書「道は開ける」でも紹介されているのだが、サー・ウィリアム・オスラーの座右の銘であったこと、カーネギー自身も洗面台の鏡に飾っていたとも書かれている。このように、偉人たちは自分なりの方法で「止まれ」の標識を生活に取り入れていたのかもしれない。

自分なりの方法を見つける

 以前、務めていた会社を辞めたときに空の色が変わって見えた経験をした。正確には自分の中で辞めようと決心したときに、空の色がそれまでとは全く違って見えたのだ。これは、「流されるように生きていた」状態から「止まる」ことにより、身の回りを「観察する」余裕が生まれたためだと思う。その後、飛行機のライセンスを取るために単身渡米した。アメリカで過ごしたその3ヶ月間は人生の中で最も大切な時間の一つになっている。

 ただし、日々の生活に忙殺されていても急に仕事を辞めたり渡米したりは気軽にできないと思う。そこで別の方法を考える必要があるのだが、一つ提案して終わろうと思う。それは「瞑想」だ。最も手軽で科学的にも効果が証明されている方法である。詳しいやり方などは割愛するが、1日の中で5分間でも今生きている自分自身に意識を集中する時間を持つことができれば、それが「止まれ」の標識になるかもしれない。

英語表現

単語・熟語

  • gratefulness:感謝の心
  • misfortune:不運
  • valuable:貴重な
  • opportunity:機会
  • rush through:駆け抜ける
  • conviction:信念
  • method:方法
  • faucet :蛇口
  • be overwhelmed:胸がいっぱになる
  • wear off :擦り減る
  • revolutionize:改革を起こす
  • equality:平等
  • contribute to:貢献する

フレーズ

It’s gratefulness that makes us happy.

感謝の心が私たちを幸せにしてくれるのです。

What you are really grateful for is the opportunity, not the thing that is given to you.

本当に感謝すべきものは、与えられた物ではなく「機会」なのです。

That takes patience. That’s difficult.

忍耐が必要で、難しいことなのです。

Those who fail get another opportunity.

失敗しても次のチャンスが与えられるのです。