シャドーイングのススメ(英語の学び方)

英語力とは何か

 「英語ができる」とはどのような状態だろうか。英語の読み書きと会話ができるようになればそう言っても良いのではないだろうか。ここでは、これをもう少し理論的に分析してみる。理論の話ばかりになるが英語の勉強の計画を立てるのに役立つはずなので、ぜひ最後まで読んで欲しい。

4種類の能力を意識する


 読み書きには「文字」が用いられ、会話は「音声」によってなされる。その中で「読むこと」と「聞くこと」は入力(インプット)の作業であり、「書くこと」と「話すこと」は出力(アウトプット)の作業になる。
まとめると、言語は「音声または文字」の「入力または出力」の組み合わせである。それは、リスニング(音声の入力)、スピーキング(音声の出力)、リーディング(文字の入力)、ライティング(文字の出力)という4つの能力に分割される。

 英語力をこれらの4つの能力に分けて考えることは、自身の弱点を明らかにするために必要なことだ。弱点を把握し向き合うことが、向上の第一歩である。「英語ができる」とは、これら4つの能力が満遍なく鍛えられている状態である。弱点を把握し、重点的にトレーニングしていくことで英語力は向上していく。

キーポイントは組み合わせて行うこと

 トレーニングをより効果的に行う方法がある。それは、これら4つのうちの2つを組み合わせて同時に行うことだ。リスニング、リーディングのみを単独で行う場合よりも大きな効果が期待できる。
 実は、英語の勉強法として確立している方法の多くは、この方法に従っている。音読とは、リーディングとスピーキングを同時に行うトレーニング法である。リスニングとライティングを同時に行えば「ディクテーション」になる。
そして、最もおすすめしたいものが、リスニングとスピーキングを同時に行う方法。これを「シャドーイング」という。

英語初学者の傾向

 英語力を4つに分割して考えることで、弱点とそれに対して行うべきトレーニング法が分かる。日本人の英語学習者の多くは「文字」を使った勉強に偏っている。その方法も「入力」が中心である。テキストを読むことを基本として、多少の音声を聴き、多少の英語を書こうとする。自ら英語を話す機会は稀である。

 その結果「出力」と「音声」が弱点となる。4つの能力でいうと、「リーディング」、「ライティング」、「リスニング」、「スピーキング」の順に自信がなくなるはずだ。心当たりがあるのならば、トレーニング法を変えることで改善する可能性は高い。

おすすめはシャドーイング

 最も効果のある勉強法は何かと聞かれることがあるが、その時にまず勧めるのは「シャドーイング」だ。シャドーイングとは、耳から入った英語の音を即座に声に出すトレーニング法である。これにより、正しい英語の音とリズムを身体に覚えさせることができる。そのため、文法や単語力を鍛えることは目的ではない。ただ、自分の中に正しい英語の音とリズムの基礎を作ることで、その後の英語の学習能力を格段に高めることができる。

なぜ効果が期待できるのか

 シャドーイングの教材に使う音源は、正しい発音でありさえすれば何を使っても良い。その時点で内容が聞き取れる必要はない。むしろ、聞き取ることができない音源を使った方が効果は上がる。聞き取れない音を必死に聞き取ろうとすることで耳は鍛えられるのだ。では、聴き流すだけでも良さそうに思われるが、声に出すことが重要なのだ。説明に代えて名著から引用する。

読む人間から書く人間へ変わるというのは、言ってみれば、受動性から能動性へ人間が身を翻すことである。書こうと身構えた時、精神の緊張は急に大きくなる。(中略)書くことを通して、私たちは本当に読むことが出来る。表現があって初めて本当の理解がある。

清水幾太郎『論文の書き方』

 「読む」と「書く」を、それぞれ「聴く」と「話す」に読み替えてもらいたい。ただ聴くのではなく必死になって声に出そうとすることで集中力が高まる。このような理由から、リスニングよりもシャドーイングの方が効果的であると言える。

シャドーイングの注意点

 シャドーイングは簡単に行うことができることも大きな利点である。私自身は、ソファーに寝ながら海外のニュース番組の音声をシャドーイングをしている。気がついたら30分以上続けていたこともある。英会話教室でもこれだけのスピーキングをするには数十回かかるはずだ。シャドーイング以上に密度の高いトレーニング法はないと信じている。

リピーティングにならないようにする

 行う上での注意点をいくつか挙げておく。一つは、できる限り間を空けずに聴いた音をすぐ声に出すことである。間を空けると頭の中でカタカナの音に変換しようとしてしまい、正しい音が出せなくなる。意味や単語を聞き取ろうとはせず、聴こえた音をそのまま出そうとすることが大切なのだ。意識としては「ほぼ同時」を心がける。
 もう一つは、使用する音源の選び方であるが、これは簡単すぎても難しすぎてもいけない。ギリギリ聞き取れない程度のものが望ましい。簡単すぎると飽きてしまうし、難しすぎると挫折してしまう。英語の音を発することの心地よさを感じられていれば、それが適切な教材である。